米国株オプションの損失は繰り越せるか|3年繰越が使えない理由と損失年にやっておくこと

米国株オプションの損失は繰り越せるか

税務・実務

本記事は一般的な情報提供であり、税務助言ではありません。記載は2026年8月12日時点の法令・国税庁公表資料に基づきます。個別の判断は税理士にご相談ください。

米国株オプションで年間200万円の損失を出した翌年、300万円の利益が出たとします。2年通算では100万円の儲けです。それでも翌年は、300万円を基に課税されます。

前年の損失を、翌年に持ち越せないからです。日経225オプションなら3年間繰り越せます。米国株の現物でも3年間繰り越せます。間に挟まれた米国株オプションだけが、繰り越せない。この記事はその理由と、繰り越せない前提で何をしておくかの話です。

この記事でわかること

  • 米国株オプションの損失が翌年に持ち越せない理由|4つの繰越制度を1つずつ潰していく
  • 「オプションだから3年繰り越せる」という誤解の出どころ
  • 名前の似た純損失・雑損失との違い(「雑損失」は雑所得の損失ではありません)
  • 同じ口座の米国株の現物は繰り越せるという非対称
  • 損失が出た年に実際にやっておくこと

この記事の前提

以下はすべて、米国株オプションの損益が総合課税の雑所得として扱われるという前提の上に成り立ちます。海外の取引所に上場するオプションは申告分離課税の対象として列挙されておらず、原則である総合課税に戻る、という条文の読み方です。導出の詳細は米国株オプションの税金と確定申告で扱っています。

ただし、国税庁がこの取引を名指しして「総合課税の雑所得である」と述べた公表資料は見当たりません。この前提自体が条文からの解釈であることを承知のうえでお読みください。前提が変われば、以下の結論も変わります。

先に結論:4つの繰越制度が、ひとつも当たらない

損失を翌年以降に持ち越す制度は、所得税に4つあります。それぞれ対象が条文で決まっていて、米国株オプションの損失はそのどれにも当たりません。

繰越の制度 何を繰り越す制度か 当たらない理由
純損失の繰越控除(所得税法70条・3年) 損益通算をしてもなお引ききれない損失 雑所得の赤字は損益通算に乗らず、条文上の「純損失の金額」にならない
雑損失の繰越控除(所得税法71条・3年) 災害・盗難・横領による資産の損害(雑損控除の残り) 取引で生じた損失は対象外。名前が似ているだけ
先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除(措置法41条の15・3年) 「先物取引に係る雑所得等」の損失 米国株オプションはこの区分に入らない
上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除(措置法37条の12の2・3年) 上場株式等の譲渡損失(米国株の現物を含む) 申告分離課税の譲渡所得等の制度。総合課税の雑所得は対象外

4つのどれにも入口が無い以上、その年に相殺しきれなかった損失はそこで終わります。以下、1つずつ確認します。

なぜ「切り捨て」になるのか。純損失にならない

いちばん大きな制度である純損失の繰越控除から潰れます。順に見ると、詰まっている場所がはっきりします。

  1. 同じ年の総合課税の雑所得の中でなら相殺できます。暗号資産の利益や副業の収入が総合課税の雑所得に区分されるなら、そこで差し引かれます(詳細は米国株オプションの損益は損益通算できるか
  2. それでも赤字が残った場合、他の所得からは引けません。損益通算(所得税法69条1項)の対象は不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の4つに限定列挙されていて、雑所得は入っていません。国税庁も「配当所得、給与所得、一時所得および雑所得の金額の計算上損失が生じることはありますが、その損失の金額は他の各種所得の金額から控除することはできません」と明示しています(No.2250
  3. 損益通算に乗らないため、「純損失」にもなりません。ここが決定打です。所得税法2条1項25号は「純損失の金額」を、69条1項の損失のうち同条を適用してもなお控除しきれない部分と定義しています。つまり69条の入口に立てない雑所得の赤字は、定義上そもそも純損失に該当しません
  4. 純損失でない以上、70条の繰越控除は使えません。結果として、その年で切り捨てになります

「損益通算できない」と「繰り越せない」は別々のルールに見えて、実はひとつながりです。損益通算の対象外であることが、純損失の定義を経て、そのまま繰越の対象外につながっています。

なお純損失の繰越控除は、仮に対象になったとしても全額を繰り越せるのは青色申告書を提出している年に限られます(所得税法70条1項の括弧書き)。白色申告のまま繰り越せるのは、変動所得の損失と被災事業用資産の損失だけです(同条2項)。

「雑損失」は「雑所得の損失」ではありません

字面がほぼ同じなので、ここで取り違える方が多い箇所です。

雑損失の繰越控除(所得税法71条)でいう「雑損失の金額」とは、所得税法2条1項26号により、災害・盗難・横領によって資産に損害を受けた場合の雑損控除で、その年に控除しきれなかった金額を指します。繰越期間は翌年以後3年間です(東日本大震災または令和5年4月1日以後に発生する特定非常災害による損失は5年間)。

投資の損失とは無関係です。「雑」の字が共通しているだけで、別の条文の、別の制度です。ちなみに詐欺・恐喝による損失は雑損控除の対象になりません(No.1110)。

3年繰越が使えるのは「先物取引に係る雑所得等」だけ

検索して出てくる「3年繰り越せる」という説明の出どころは、ほぼこれです。制度は実在します。ただし対象が違います。

租税特別措置法41条の15による繰越控除の対象は、「先物取引に係る雑所得等の金額の計算上生じた損失」に限られます(No.1523)。しかも繰り越した損失を控除できる相手は、翌年以後の「先物取引に係る雑所得等の金額」だけです。給与所得など他の所得から差し引けるわけではありません。

では何が「先物取引に係る雑所得等」に入るのか。申告分離課税の対象を定める措置法41条の14が引いているのは、金融商品取引法2条21項の「市場デリバティブ取引」と、同法2条22項の「店頭デリバティブ取引」(金融商品取引業者または登録金融機関を相手方とするものに限る)です。日経225先物・オプション、国内の金融商品取引業者を相手方とするFXなどがここに入ります。

一方、外国の金融商品市場で行う取引は、金融商品取引法2条23項の「外国市場デリバティブ取引」として別に定義されています。措置法41条の14は、この23項を引いていません。21項は「金融商品市場において」、22項は「金融商品市場及び外国金融商品市場によらないで行う」と、いずれも文言上、外国金融商品市場での取引を外しています。

したがって、海外の取引所に上場するオプションの損失は3年繰越の対象外、というのが条文上の帰結です。ただし前提のとおり、国税庁がこの取引を名指しして対象外だと述べた公表資料は見当たりません。断定ではなく、条文からの読み方としてお受け取りください。

よくある誤解:「オプション取引なのだから3年繰り越せるはず」

  • 措置法41条の14は、対象を「オプションかどうか」「先物かどうか」で決めていません。どの市場で、誰を相手方として行った取引かで決めています
  • 国内の取引所で行う日経225オプションは金融商品取引法2条21項に当たるので対象。外国金融商品市場での取引は同法2条23項に別建てで定義され、措置法41条の14はこれを引いていません
  • 同じ構造はFXでも起きています。国税庁は、平成28年10月1日以後の店頭デリバティブ取引のうち金融商品取引業者・登録金融機関以外を相手方とするものは申告分離課税の対象外としています(No.1521)。商品の種類ではなく、市場と相手方で決まるという国税庁自身の説明例です
  • 「オプション 損失 繰越」で出てくる3年繰越の解説は、そのままでは米国株オプションに当てはまりません

同じ口座でも、現物は繰り越せる

米国株の現物の譲渡損失は、上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除(措置法37条の12の2)の対象になり得ます。外国金融商品市場において売買されている株式等も「上場株式等」に含まれるためです(No.1463)。申告分離課税を選択した上場株式等に係る配当所得等と損益通算し、なお引ききれない金額を翌年以後3年間繰り越せます。

一方、同じ証券口座で建てたオプションの損失は繰り越せません。課税のレーンが違うため、米国株現物の利益とオプションの損失を相殺することもできません。

カバードコールのように現物とオプションを組み合わせる戦略では、この非対称が効いてきます。現物の損は将来の利益と相殺できる可能性があり、オプションの損はその年で消える。同じ戦略の中でも、損失の「寿命」が違います。

繰越控除は「申告し続けること」が要件です

  • 繰越控除は自動では適用されません。純損失(所法70条4項)、雑損失(同71条2項)、先物取引(措法41条の15第3項)、上場株式等(No.1474)、いずれも、損失が生じた年分の確定申告書を提出し、その後も連続して確定申告書を提出していることが条文上の要件です
  • 国税庁は上場株式等について「上場株式等の譲渡がなかった年も、譲渡損失を翌年へ繰り越すための申告が必要です」と明記しています。実務でいちばん落とされる要件です
  • 先物取引の繰越には「所得税及び復興特別所得税の申告書付表(先物取引に係る繰越損失用)」等の添付も要ります
  • 「今年は取引が無いから申告しなくていい」と判断すると、使えたはずの繰越が使えなくなります

「事業所得にすれば繰り越せるのでは」という論点

事業所得なら損益通算の対象になり、青色申告であれば純損失の繰越控除も視野に入ります。そこから「取引を事業として申告すればよいのでは」という発想が出てきます。

ここは断定を避けます

  • 国税庁が事業所得として例示しているのは「農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業」で、有価証券取引・デリバティブ取引には触れていませんNo.1350)。投資が事業所得に当たると読める一次情報は見当たりません
  • 所得区分は取引の規模・継続性などの事実関係で判断されるもので、納税者が選べるものではありません
  • 仮に事業所得に区分されたとしても、純損失を全額繰り越すには青色申告書の提出が別途必要です(所得税法70条1項)。白色のままでは変動所得・被災事業用資産の損失しか繰り越せません
  • 区分を誤れば、繰越どころか是正の対象になり得ます。この判断は税務署または税理士にご確認ください

損失が出た年にやっておくこと

繰り越せない以上、できるのは「その年のうちに」に限られます。繰り越せない=一切相殺できない、ではありません。

  1. 同じ年の総合課税の雑所得と相殺する。年内であれば、オプションの利益と損失は当然に差し引きされます。暗号資産や副業の所得が総合課税の雑所得なら、そことも相殺されます。これが唯一の相殺です
  2. 必要経費を漏らさず計上する。雑所得は収入から必要経費を差し引いて計算します。繰り越せない年こそ、その年に落とせるものを落としきる意味が大きくなります(投資ツール代は経費にできるか
  3. 利益と損失を同じ年に寄せられないか考える。年をまたぐと相殺の機会が消えるため、決済のタイミングが税負担に影響します。ただしこれは税務だけで決める話ではなく、相場観・戦略と一体で判断するものです
  4. 現物の損失は別に管理する。繰越の可否も申告書の欄も違う以上、現物とオプションは最初から分けて記録しておくほうが申告時に楽です
  5. 記録を残す。繰り越せなくても、年ごとの損益はポジションサイズの判断材料になります

2026年8月12日時点の法令・公表資料 租税特別措置法41条の14・41条の15は改正が重ねられてきた条文です。申告前には最新の条文をご確認ください。

出典・最新情報

よくある質問(FAQ)

Q. 前年の損失を今年の利益から引くことは本当にできないのですか。
A. 総合課税の雑所得の損失を翌年以降に繰り越す制度は、所得税法上の4つの繰越制度のいずれにも当てはまりません。前年に200万円の損失、今年に300万円の利益であれば、今年は300万円を基に計算されることになります。

Q. 日経225オプションで損を出した年は3年繰り越せると聞きました。何が違うのですか。
A. 繰越控除の対象が「先物取引に係る雑所得等の計算上生じた損失」に限られているためです。国内の取引所で行う日経225オプションはこの区分に入り、外国金融商品市場での取引は入りません。オプションかどうかではなく、市場と相手方で決まります。

Q. 日経225オプションの利益と、米国株オプションの損失を相殺できますか。
A. できません。前者は申告分離課税の先物取引に係る雑所得等、後者は総合課税の雑所得で、別々に計算します。国税庁も、先物取引に係る雑所得等の計算上生じた損失は、それ以外の所得との損益通算ができないとしています。

Q. 同じ口座の米国株の現物で出た損失はどうなりますか。
A. 上場株式等の譲渡損失として、申告分離課税の枠組みで繰越控除の対象になり得ます。ただし損失が生じた年から連続して確定申告書を提出することが要件で、譲渡がなかった年も申告が必要です。

Q. 「雑損失の繰越控除」は使えませんか。
A. 雑損失の繰越控除は、災害・盗難・横領による資産の損害についての雑損控除を繰り越す制度です。名前は似ていますが、取引で生じた雑所得の損失とは別のものです。

Q. 損失しか出なかった年でも確定申告をする意味はありますか。
A. 繰越制度はいずれも「損失が生じた年に申告していること」を要件としますが、総合課税の雑所得の損失にはその制度自体が適用されないため、繰越権を確保するための申告という意味は生じません。なお、所得税の確定申告書を提出すれば住民税の申告書も提出したものとみなされます(地方税法317条の3第1項)。所得税の申告をしない場合は、住民税の申告が別途必要になることがあります。ご自身の申告義務は税務署・お住まいの市区町村・税理士にご確認ください。

Q. 事業所得として申告すれば繰り越せますか。
A. 事業所得に当たるかどうかは取引の規模や継続性などの事実関係で判断されるもので、選択できるものではありません。投資・デリバティブ取引が事業所得に当たると示した国税庁の公表資料は見当たりません。仮に該当しても、純損失の全額繰越には青色申告書の提出が必要です。この判断は税理士にご相談ください。

まとめ

  • 米国株オプションの損失は、その年で切り捨て。所得税の4つの繰越制度がひとつも当たらない
  • 損益通算の対象外であることが、条文上の「純損失」に該当しないことにつながり、純損失の繰越控除の入口を塞いでいる
  • 3年繰越が使えるのは「先物取引に係る雑所得等」の損失。措置法41条の14は金融商品取引法2条21項・22項を引き、23項の外国市場デリバティブ取引を引いていない
  • 「雑損失の繰越控除」は災害・盗難の話。雑所得の損失とは別制度
  • 同じ口座でも現物は繰り越せる。ただし連続申告が要件で、取引が無い年も申告が要る
  • 事業所得にすれば繰り越せるかは選べる論点ではない。一次情報でも裏付けられない
  • 繰り越せない=一切相殺できない、ではない。年内の相殺と必要経費の計上は使える

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※本記事は一般的な情報提供であり、税務助言ではありません。記載は2026年8月12日時点の内容です。制度は改正されます。個別の判断は必ず税理士にご相談ください。個別のご質問にはお答えできません。

※本記事は一般的な情報提供であり、投資助言ではありません。記載は執筆時点の情報です。最終的な投資判断はご自身の責任でお願いします。

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